ヴォルフラムからは、甘い匂いがする。たとえるなら、少し溶けかけた砂糖菓子のような。
蜂蜜のように蕩けてしまいたくなるような、匂いだった。
「戻せよ」
黄金色の髪を揺らし、首を傾げる。甘さが消えた。たとえていうなら、そう。煮詰めすぎて焦げてしまったカラメルのように、香ばしくて、少しだけ苦い匂い。
あの甘い匂いに包まれて、骨の髄から溶かされてしまいたかったのに。
「香水、前のやつに戻せ」
やっとおれの言葉の意味が分かり、ヴォルフラムは少し驚いたような顔をする。
「わかったのか」
「わかるよ」
おれの言葉に、なぜかヴォルフラムは嬉しそうに笑う。見慣れたその表情も、纏う匂いが変わったからだろうか。エメラルドグリーンは、おれの知らない色を孕んでいた。
「戻せよ」
不安になる。そんなものじゃない。怖くなる。恐ろしいんだ、お前が。

その夜。おれは馴染んだ甘い匂いに包まれて眠りについた。ただ、その砂糖菓子のように甘い匂いの中に、ほんの少しだけ焦げたカラメルの匂いがした。その意味を、本当は理解していた。けれどおれはあえて気が付かないふりをする。

なあ、ヴォルフラム。おれはまだ、お前とおままごとみたいな関係でいたいんだよ。



2010/08/27(香水を変えるという行為の意味について。)